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『弊社にて打ち合わせた結果、高梨さんのデザイン案でコラボさせて頂くことになりました。』
『ありがとうございます。』
前回の打ち合わせから少し経った今日、神谷さんに連絡が入って。
突然だったから、神谷さんは都合がつかなくて、冬也と2人きりで打ち合わせることになった。
『堅苦しいの、嫌いだよね?』
『はい?』
『2人きりだから、木崎でいるのやめようかなって。
で、彩星のデザインなんだけど、満場一致だったんだよ。』
冬也の割合が100%になって、一気に砕けて話す冬也についていけなくて。
『ありがとうございます。』
褒められてるから、お礼は言うけど、あくまでも取引先って態度は崩さない方がいいと思って。
『彩星、それって彼氏から?』
冬也の視線も、一昨日もらった指輪に留まった。
『うん…あ、はい、そうです。』
『プハっ…大丈夫だよ、砕けて話しても仕事中に抱きしめたりしないから。』
ブルーのクレリックシャツを着た冬也が、えくぼを見せて笑う。
『本当、可愛いよね。彩星って。』
あぁ…調子が狂う。
冬也は昔からこんな感じだったかな。
大人になったから、こんな冗談ばかり言うようになったのかな。
扉をノックする音で、背筋がシャキっとする。
『失礼します。』
冬也が木崎さんに戻る瞬間、えくぼが消えて、少し瞳が鋭くなるのを見た。
『初めまして。弊社企画部長をしております、三浦と申します。高梨がいつもお世話になっております。』
扉の向こうから現れるのは、打ち合わせに参加できるようになった神谷さんだと思ったのに。
『こちらこそ、ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。
gentle beaute 企画グループの木崎です。坂木からお噂は聞いております。
今はミラノに行かれていると。』
『えぇ、今日は一時帰国をしておりました。ご都合が宜しければ、滞在中に御社へ伺いたいと思っております。』
会社ではよくある光景に、私の心臓は今にも破裂しそうなほどハイスピードで動いていて。
嫌な汗が背中を伝っていく感覚が、一気に現実を突き付けてきた。
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