127人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
木々の間で揺れる提灯とそれに照らされてぼんやりと浮き上がる淡いピンク。その下で、桜を見上げて緊張を紛らわしながら立つ男の人。
普通じゃつまらないからと、お花見は独特な催しが毎年ある。独特を超えて、奇抜なときもあるけれど。
結局、学生ノリのこれが1番盛り上がる。
『僕の彼女になってくれませんか。企画部の立花さん。』
一緒に座っていた立花さんが、私と武田さんと顔を見合わせて動揺している。
『わ、私、呼ばれた?』
『呼ばれたね……。』
後ろから飛んでくる野次を交わしながら、その人は立花さんの返事を待っていて。
立花さんも人の間を縫って、なんとかステージに辿り着いた。
『よろしくお願いします…。』
答えは、YES。
『立花さんが、斉藤さんのこと好きって聞いてないんですけど。』
『好みなんじゃない?…ま、三浦部長超えはしてないと思うけど。
とりあえず付き合ったりもする子だからね、立花は。』
呂律は回っているけど、早口になっている武田さんの解説に聞き入る。
『斉藤、次のご指名は?』
司会役の原田さんは、スパンコールが付いたパープルの蝶ネクタイと【今夜の名幹事】の襷を掛けていて。
実際、名幹事と言われている神谷さんは、3本離れた桜の下に設けたブルーシートに座って、取引先の人と話し込んでいる。
『それでは…自薦にさせてください。』
『自薦でーす。我こそはという方いませんか?』
『いるわけないでしょ、全く。なんでこんなイベントやるかねぇ。』
武田さんがブツブツ文句を言いながら、もう1缶ビールを空けた。
今日のお花見には、武田さんの彼は来ていないみたいだけど……介抱係の立花さんは、たった今斉藤さんに持っていかれちゃったし。
『武田さーん、飲み過ぎないでくださいね?』
『だーいじょぶよっ!まだまだ飲めるわよ。困ったら彼に来てもらって、立花に送ってもらって、会社に泊まったっていいし。』
……既に言ってること、ゴチャゴチャ。あーぁ、今日は私が介抱役かなぁ。
淡々とマイペースでビールを飲み進める武田さんを諦めて、突然賑やかになった周りの声の中心に視線を送った。
『それでは、自己紹介からお願いします。』
原田さんが、お花見グッズのダミーマイクを渡した。
『gentle beaute 企画グループ 木崎と申します。』
最初のコメントを投稿しよう!