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お店を出て、再び冬也の右側に座る。
運転している横顔はとても穏やかで、ついさっき言われた言葉が嘘のよう。
―『もうあの時みたいに後悔したくないんだ。』ー
後悔先に立たず……か。
本当に、私のことを想っているの?
本当に……後悔しているの?
嫌いになってと言われた私は、いつからか冬也への恋愛感情がなくなった。
そこに後悔がないのは、振られたから。
少しでも前に進めていると思うから。
『ねぇ、冬也。名刺入れのことなんだけど、私が拾わなかった可能性もあるでしょ?』
『そうだね。でも、その可能性は低いと思ってたけど。』
『だって、私が気付かなかったら。』
会社の前に着いて、車道に横付けして停めると、冬也がシートベルトを外した。
『きっと彩星なら拾ってくれると思ってた。わざと落として帰ったんだよ。』
えくぼのある笑顔で私を映す瞳は、変わることなくキラキラしている。
『わざと?
……じゃあ、写真は?私と再会して入れてたんでしょ?』
そうだと言って。
私と再会したから、写真を入れてわざと落として帰った。
……まさか、ずっと想っていたなんて、言わないで。
『写真は、日本を発ったあの時からずっと。
名刺入れは何度か新しくしてるけど、彩星との写真は、ずっとだよ。』
目を細めて優しく撫でるような視線が、また私の心を揺らした。
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