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『……ひどいよ。』
一方的に別れて、フランスに行って、何の連絡もなくて。
日本にいつの間にか戻って、偶然再会した。
だけど、その間、ずっと私は苦しくて、切なくて、悲しかった。
切り裂かれたような痛みが、毎日心を襲って。
冬也のことばかり考えて、冬也を忘れるために付き合って別れて…それを繰り返して。
全て、冬也を忘れるため。
……それなのに、忘れられなくて。
何をしていても、冬也のことを想ってしまって。
大好きで、嫌いになんてなれないのに、嫌いにならなきゃいけなかった。
それなのに……冬也は…。
『ごめんな。本当に、ごめん。
俺、彩星のこと忘れられなかった。他の誰かと恋をしても、ダメだった。
もう会えなくても仕方ないって諦めていても、もう1度だけ会いたいって、心のどこかで願ってた。』
嘘でしょ?
私と同じじゃない。
忘れられなくて、他の人じゃダメで。
……バカみたい。
ずっと想ってたなんて。
2人ともそうだったなんて。
『冬也は勝手だよっ!』
怒りと戸惑い。
部長に恋をするまでの悲しみが、一気に涙となって溢れてきて。
滲んだ視界で捉えたブルーのクレリックシャツの胸を叩こうと、手を拳にした。
『ごめん。勝手なこと言ってるのは分かるんだ。』
私の拳は、大きな手に包まれて力強く引き寄せられて。
より強く感じる、ミドルノートのウッディ。
『でも、俺のこと忘れていたとしても……俺のこと、嫌いになれた?』
長い指が、私の頬を撫でる。
涙も、怒りも、悲しみも……全部掬うように。
『……。』
嫌いになんて、なれなかった。
忘れていたけど、嫌いじゃない。それが私の心を揺らしていた正体なんだ。
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