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ドアが閉まって、施錠する金属の音。
『ただいま。』
『おかえりなさい。』
キッチンに立つ私のウエストに、部長の両腕が巻きつく。
煙草の匂いが少しするけど、それすらも一緒にいるって実感させてくれる1つの要素になる。
『今日はなに作ってくれてるの?』
『シーフードグラタンとオニオンサラダです。』
『美味しそうだ。着替えてくるね。』
耳朶のピアスにキスを落としてから、部長がリビングを出ていった。
はぁー。第一関門突破。結果…いつも通り。
あの後、部長は外出しちゃって特に話すことなく帰ってきたから、どんな感じで接してくれるのか気掛かりだった。
隠すつもりはないけど、全てを話すのも気が引けて。
どこまで言っていいものなのか、その境界線はまだ見えない。
『サラダ盛り付けていい?』
『うん。』
部長がボーダーのカットソーの袖を適当に捲って、水にさらしていたレタスやミニトマト、ごく薄くスライスしたオニオンを、お店で出てくるみたいに盛り付けてくれる。
こういうのもセンスが出るって聞いたことあるけど、本当にそう思う。
焼きあがったグラタンを食べながら部長をチラリと見たら、舌先を出したまま、眉間に皺を寄せていて。
『火傷しちゃった。』
目尻を下げて微笑むその表情は、少しだけ私の緊張を解していく。
部長が話を切り出すことはないと思う。
私が話したくないことなら、そっとしておこうって考えるはずだから。
でも、話したら。何かが変わってしまうかもしれない。
その変化が怖くて、つい目を背けたくなってしまう。
『どうした?彩星も火傷した?』
私は、すぐに首を2往復して、そうじゃないって答えた。
やっぱりこのままじゃダメだよね。
仕事が絡んでいることだし。
『……あのね。今日のお昼のことなんだけど…。』
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