127人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
大きな時計の秒針が刻んでいくみたいに、ドクンドクンと鳴る心音。
頭に浮かんだ言葉から順に、声に出していくしかなくて、いろいろ考えていたものはリセットされた。
『木崎さんが…。』
『うん。彼が?』
部長が優しく私の一言一言に相槌を打つ。
『私のこと好きだって。彼がいても奪うって……。』
予想通り訪れた沈黙。
部長のことが見れなくて俯いたまま、ボリュームを絞られたテレビの音だけが私の耳に届く。
『…そっか。分かった。』
ゆっくり顔を上げていくと、部長が腕組みしているのが分かって。
さらに視線をあげると、部長は困った顔で……それでも優しく微笑んでいる。
『それは仕方ないことだから。誰かに好かれているのはいいことだよ。
でも、奪うって……宣戦布告っていうの?面白いね、木崎さんって。』
部長が、最近あまり見ることのなかった得意気な表情になった。
『それとね。』
『ん?』
もう、言うしかない。
部長には、隠し事をしたくないから。
『木崎さんは……実は、元彼なの。』
『元彼?!』
組んでいた腕を解いて、テーブルに前のめりになった部長が、眉間に皺を寄せた。
『偶然、コラボ企画で再会して……。』
『そう。元彼、ねぇ…。』
部長が今度は背凭れに寄りかかって、ピアノを弾くようにテーブルを指で弾く(はじく)。
やっぱり言わない方が良かったのかな。
再び訪れた沈黙に耐えられなくて、私はまた俯いた。
最初のコメントを投稿しよう!