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何分経っただろう。
お互い目を合わせず、それぞれ手元のグラスを傾ける。
テレビからはタイミングが良いのか悪いのか、& eyeのCMが流れてきて。
部長が秘密で制作して、プレゼントしてくれたバージョン。
『それで、彩星は?……どう思ってるの?』
私は……どう思ってるんだろう。
冬也のことが好きかと聞かれたら、好きだと思う。
でも、また彼女にはなりたいと思わない。
『好きだけど、それは嫌いじゃないから。
だから、またお付き合いしたいって思ってないです。』
部長のストレートな視線に、私も真っ直ぐ返す。
『じゃあ、それでいいじゃない。
俺は彩星のことが大好き。彩星もそう思ってくれてるんでしょ?
……それが答えだよ。』
フワリと微笑む部長が、スマイルマークの表情になった。
『はい。』
私もつられて笑顔になって。
長方形のテーブルの向こうから長い腕が伸びてきたと思ったら。
『む…。』
私の両頬をムニッと摘まんだ部長が、口角を片方だけ上げてニッと笑った。
『だから、あとは俺に任せて。』
『まかひぇて?』
『プハっ。』
頬を摘ままれて、うまく話せない私を見て、部長が吹き出して笑った。
手を離して立ち上がった部長が、冷めてきたグラタンをレンジで温め直してくれている。
『……彩星。』
椅子に戻ると思った部長が来たのは、私の後ろ。
肩まである背凭れ越しに、抱きしめてきて。
『あとは、俺に任せてくれる?』
『だって、私が…。』
私がもう1度、冬也にハッキリと伝えなくちゃいけないはずなのに。
『ねぇ、大切な人を奪うだなんて言われて、俺が黙っていられると思う?』
『でも…………んっ。』
大きくて温かい部長の手が、私の口を覆った。
『取引先でも、元彼でも、彩星が嫌いじゃなくても。
……俺からは、絶対に奪えない。』
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