127人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
定時になって、1Fのコンビニに向かうエントランス。
『お疲れさま。』
不意に私の後ろから聞こえた声。
『と……木崎さんっ。』
『冬也でいいのに。待ってるって言ったでしょ?ご飯行かない?』
受付のお姉さんの視線が、勢いよく刺さる。
あぁ、そうか。あの人なのかもしれない。
会議の後、部長に告白してた人って。
さりげなく当てられた掌が、私の背中を軽く押して入口のドアへと向けさせた。
『あの、私、今日は…。』
『ん?彼氏とデート?』
『はい……すみません。』
私の背中にあった手が帰っていく。
『だったら、尚更だ。今日は俺とデートして?』
『えっ?!』
引き下がってくれると思っていた私の考えは、あっさり覆された。
『彼氏、誰だか知らないけど、俺の方が彩星のこと好きだから。』
『ちょっと……きざっ……冬也っ!』
冬也は、半ば強引に会社の外へ連れ出した私の手を引いて、横付けしていた車に向かっていく。
『木崎さん。』
振り返ったその先。
会社の入口の端に設けられた喫煙所。
煙草を片手に、冬也を呼んだその声。
冬也と部長の間で、私は行き場を失って俯くしかなくて。
カツカツと音を立てて近付く部長の革靴が視界に入る。
そして……視界から消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!