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『こんばんは。』 先に口を開いたのは、冬也だった。 俯いていた顔を上げると、部長が冬也の隣に立っている。 『今日は弊社でお打ち合わせでしたか?』 部長の表情は、にこやかだけど言葉のテンションは決して高くない。 『いいえ。先程お電話で高梨さんとお話しまして、今日はこれから担当者同士でお食事にでもとお誘いしたところなんです。』 『そうでしたか。』 部長が口角を上げて微笑んで、見つめるのは私の瞳。 『高梨さん、今日はデートって言ってなかった?』 『あ、は、はい…。』 知っているクセに、わざとらしくなく問いかけた部長の表情は得意気で。 『もしかして、木崎さんとお付き合いしてるの?』 『えっ?!』 想定外の展開。 『大丈夫、社内には秘密にしておくよ。』 そういうことじゃなくて。 どうしてそうなるの? 私の大切な人は……部長なのに。 『それでは、失礼します。』 冬也が、私の手を再び引いて、車の右側のドアを開けた。 助けを求めるように、部長を振り返ったけど……もう背中を向けていて。 『あ、木崎さん。』 バンパーの向こうから聞こえた、部長の声。 『はい?』 それに応える冬也は、私の背中に手を添えて、ドアを開けたままでいる。 『高梨さんの恋の相手がどなたでも……私は彼女を奪います。』 丁寧さが伝わる微笑みと会釈を残して、部長が背を向けた。
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