19

38/38

127人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
次に、私の視界を埋め尽くしたのは、口角がキュッと上がったスマイルマークの笑顔。 妖艶で透き通るような瞳が揺れて、映る私も一緒にゆらりとした。 『ありがとう。 彩星、大切にするから。 だから……俺から、離れるな。』 付き合ったばかりの夏。 海にドライブをした日。 あの時と変わらないストレートな言葉が、私の気持ちをキュっと狭くする。 『返事は?』 頬に当てていた掌が、私の手を拘束した。 部長自身を支えていたもう片方も、私の手を押さえつける。 単純に、はい、と答えてもいいのかもしれないけど、それだけじゃ足りなくて。 でも、言葉にしようとすると、大好きとか知っているものしか浮かばなくて。 そんなことはきっと見透かしていそうな部長の瞳に、コクリと頷いてみせた。 右にあったコート掛けから、しゅるっと泳いできた、レジメンタルのネクタイ。 突然解放された手は、頭上で1つに纏め上げられた。 『えっ、部長っ?!』 ベッドの上に居場所を失ったような気持ちになる。 ……さっき会社の前で追いつめられた、甘くて溺れそうな波打ち際に向かうような……。 『ごめん、もう……無理だ。』 目蓋に落とされた優しいキス。 柔らかく溶け合う唇が、お互いの体温を共有し始めて。 吸い上げられた下唇は、腫れそうなほどに熱くなった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

127人が本棚に入れています
本棚に追加