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『今夜、この後……僕に貴女の時間をください。』 冬也が発した言葉が、私の耳に届くと。 見つけた、と聞こえてきそうな熱を帯びた視線とぶつかった。 取引先の人がまさかそんなことを言うなんて思いもよらず、ザワザワとする周りの人たち。 『木崎様……お相手は…。』 そのざわめきをピタリと静寂に戻したのは、冬也に告白の続きを促す、原田さんの声。 だけど私の身体の中は、落ち着きを取り戻す術(すべ)を忘れて。 真っ直ぐで火傷をしそうなほど熱い、冬也のキラキラしたこげ茶色の瞳にロックされたみたいで。 春の夜風に吹かれて、クルクルと回転しながら、視線と視線の間を軽快に舞う桜の花びら。 私の瞳に映る冬也の表情が、温かな微笑みに変わって、薄らとえくぼが見える。 止めて、冬也。 お願いだから…………。 『御社企画部の……高梨さん。』 冬也に集まっていた視線が、一斉に私に移る。 『あれ?高梨さんって、三浦部長と付き合ってなかった?』 『ミラノに行ってる間に、まさかのハプニング?!』 好奇の目は、減るどころか増えていく一方で。 『高梨さん。前へどうぞ!』 蝶ネクタイをカチューシャみたいに頭に付けたほろ酔いの原田さんが、私の固まった表情も周りの異様な空気も無視して、今夜の名幹事に徹している。 『……高梨さん。』 冬也が、私の逃げ場を奪った。
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