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……目眩のように、グラリと揺れて、歪む視界。
だけど、冬也の隣に向かうしかなくて。
立花さんがそうしたように、私も座っている人の隙間を縫って辿り着いたそこには、神谷さんが困惑の色を隠しきれない苦笑いで立っていた。
『…高梨さん、大丈夫?』
『大丈夫……です。』
………じゃないけど。
これっぽっちも余裕なんかないけど。
神谷さんの左をすり抜けて、冬也の前に出た。
私の瞳を間近で捕らえる、キラキラしたこげ茶色は、私を焼きつくそうとしている。
そして、小さく動く唇は、もう1度私の名前を呟いた。
目眩がしたのとは違う揺れ方をする、私の視界。
『……っ!!』
冬也の手は、何の躊躇いもなく、私の手を引いていて。
すぐ目の前に香る、ウッディのラストノート。
『こうでもしないと、彼氏から奪えない気がして。』
耳元で囁かれた声とは裏腹に、爽やかに微笑む冬也が、私を引き寄せた。
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