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『……っと…。』
『木崎さんがどうしてあんなことするの?…知り合いじゃないんだよね?』
冬也が元彼だなんて言えない。
それを言ったら、仕事がしづらくなることは確実。
あくまでも、取引先の担当者でありたい。
『……すみません。知り合いの方なんです。お名前が違っていたので似ている方だと思っていたんです。』
『……ごめん、ちょっと意味が分からないんだけど…。』
知り合いだと言った瞬間、瞳が少し揺れたように見えた神谷さんは、疑問符が浮かんだ表情をしていて。
『…初対面の時に木崎さんってご紹介いただいたので、別人だと思っていました。
でも、先日忘れ物を届けに伺った後、お食事にお誘いいただいて…そこで知りました。』
『木崎さんとは、どういう関係なの?』
―『こうでもしないと、彼氏から奪えない気がして。』―
―『…惚れ直したよ。』―
―『本当は大好きで離れたくなくて仕方なかった…。』―
自然と目を伏せてしまうのは、これから言う言葉が本当だけど、嘘だから。
嘘じゃないと誰かが言ってくれても、事実というには足りないから。
『…大学時代の……先輩と後輩です。』
反応がない神谷さんの視線の先には、冬也がいて。
少しして戻された神谷さんの瞳に、私が映る。
『…そっか。木崎さんが、高梨さんに好意を寄せていることは分かったよ。
仕事しにくくなりそうだったら、相談に乗るから話してね。』
私の肩をポンっと叩いてから、輪に戻っていくその背中に、心の中で頭を下げた。
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