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『高梨ちゃーん。もう1件行くわよっ!どこに行くー?……おっと。』 私の右腕に掴まった武田さんがよろける度に、私も持っていかれそうになる。 『高梨さん、お疲れさまです。って言うか、さっきのって取引先だからですよね?部長とうまくいってるんだし。』 『その通りなんだけど、周りはそう思ってくれてない人もいるみたいね、やっぱり。』 1課の2次会に参加する斉藤さんと離れた立花さんが、一緒に武田さんを支えてくれる。 『だったら、堂々と仕事こなしてたらいいですよ。 部長と付き合ってるのだって、悔しいって思ってる人がいるんだから。 イケメン2人を手玉に取ったらこうなりますって。仕方ないです。』 『手玉って…。』 立花さんが慣れた感じで武田さんを歩かせていて。 坂本さんが介抱役に選んだのも納得がいく。 『……すみません。彼女、借りてもいいですか?』 公園の出口で、冬也が立花さんに話しかけた。 『彼女…あ、高梨さんですか?』 『うん。いいかな?』 『高梨さん、木崎さんがお待ちですけど…。』 困惑の表情で立花さんが、私のことを見つめる。 ここで冬也について行くわけにはいかない。 周りの視線が、まだ私と冬也に注がれているから。 あくまでも、取引先のメンツを立てるための、場の空気を読んだ返事だったから。 私は、部長のことが大好きだから。 離れているからこそ、想っていたいから。 『木崎さん、すみません。 今日は、先約があるので、またの機会にしていただけませんか?』 今後一切会わないって言えたらいいのに。 そうしたら、私の心の中の何かが揺れ動くこともなくなるはず。 だけど、冬也は取引先だから、失礼は許されない、 お互いに。 『そうですか。それは残念です。 それでは、また打ち合わせでお会いしましょう。』 にこやかな表情のまま、スマートに身を引く冬也が会釈して去っていく。 それに伴って、周りの視線も一気に減って。 『ふぅ…。』 重たい空気を吐き出すように、ホッと息をついた。 『高梨さん、良かったんですか?木崎さん、部長と同じくらいカッコいいのに。』 立花さんが、遠くなっていく冬也の背中を見届けながら言った。 『いいの。取引先様だから、あくまで社交辞令にしてもらわないと。』 そうしてもらわないと……本当に、困るんだ。
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