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神谷さんの予定を確認したら、タイミングよく午前中は空いていて。
企画部の打ち合わせテーブル。
葉月ちゃんが淹れてくれた、部長のお気に入りのブルーマウンテンの香りが、ほんの少しぼんやりしていた頭の片隅を目覚めさせてくれた。
『すみません、急にお時間いただいて。』
『構わないよ、今日は週に1度の社内デーにするつもりだったから。』
いくら忙しくても、週に1度は社内で打ち合わせたり、必要な雑務をこなす時間が誰にでも必要で。
『それでですね、コラボのネーミングなんですけど……こんなのはどうでしょう。』
手渡した即席で作った資料は、イメージし易い写真とかもあまりない、シンプルなもの。
『Love hunter?
また攻撃的なネーミングだねぇ。俺、嫌いじゃないけど。コスメなのにハンターっていいじゃん。』
神谷さんは、私の企画をいつも褒めてくれる。
勿論、一緒に悩んでお手上げになる日もあるけど。
『一緒にいいものを作ろう』
って、最後には必ず励ましてくれるんだ。
『そうだなぁ。で、ネーミングのイメージは?』
それは、部長の瞳がヒントで思い付きました……とは、言えず。
『このマスカラを塗った女性のことを、思わずハントしたくなるような、魅惑的な睫毛ってイメージなんです。
逆に、その女性も、魅力的に変身できるイメージで。』
『ふぅーん。ハント…か。』
部長が、資料の空白にLove hunterの文字を色々な字体で書いている。
『夏輝、聞き覚えない?……ハント。』
神谷さんが、片方の口角だけをクイっと上げて、優しいけど挑戦的な表情で部長に問いかけた。
『聞き覚え?……ないはず、多分。』
あれ?
今、一瞬何かを見つけたように、部長が目を見開いた気がする。
『本当にないのかよ。前に俺に言っただろ。』
『そうだったかな。まぁ、いい。
高梨さん、それで他にイメージは?』
部長が、いつも通り仕事に向き合う鋭い視線で私を見た。
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