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部長が日本を発った、火曜の夜。
いつの間にか梅雨明けして、夏の匂いがする夜風に変わった。
確実に進んでいるって実感できるこの季節。
先週、gentleとの打ち合わせで、企画もまた1つ進んだ。
でも、部長がミラノに戻ることだけはどうしても慣れなくて。
会う度に、素敵な女性になったと部長に思ってもらえるように頑張っているつもり。
だけど、それが実感できなくてじれったい。
どうしたら、もっとなりたい自分になれるんだろう。
どうしたら、部長の隣が似合う女性(ひと)になれるの?
携帯の待ち受けにしている、会社の花火大会で撮った写真。
浴衣姿の私と、スーツ姿の部長。
また今年も一緒に見に行きたいな……花火。
その後、部長の家でいろいろあったけど……それは思い出すだけで恥ずかしいことで。
でも、いまはその体温が愛しくて。
じんわりと滲んで見える、待ち受け画面。
寂しがりは治らないみたいだよ、部長。
会社の最寄駅構内を歩いていたら、バッグに仕舞った携帯が震えた。
『彩星?元気してる?』
『麻耶、久しぶり。ごめんね、最近バタバタで。』
『優から聞いてるよ。頑張ってるみたいだね。
ねぇ、今日ってこれから会えないかな。どうしても話したいことがあるの。』
私も今日は1人でいたくない。
ひっくり返っても変わらないミラノとの距離が、私の涙腺を刺激するから。
『OK。どこで待ち合わせる?』
電車に乗ろうと改札に向けていた足は、簡単にその跡を辿るように戻っていく。
もし、時間も簡単に昨日に戻せるなら。
もっと部長に甘えるのにな。
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