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『おめでとうございます。』
仮称Love hunterの打ち合わせで1課に来た。
フロアにある会議室が空いてたから、堂々と尋問出来そうな気がする。
『何のこと?……あ、新しい商談の件?話早いね。』
一瞬疑問符が浮かんだけど、パチンと音がしたような顔の神谷さんが言ったことで、今度は私の頭上に疑問符が浮かぶ。
『新しい商談?……違いますよ、あ、そうとも言うのかな。神谷さん、どうやってあの院長を攻略したんですか?』
『院長?攻略?……えっ、あれっ?もしかして昨日の話?!』
神谷さんが鼻を摘まむ時は、照れちゃってる時だって、私は知ってます。
『あんな綺麗な指輪見せられたら、そりゃこっちだって聞きたいことが山のようにあるんです。ずーっと麻耶の片想いを応援してきた身としては、その権利、ありますよね?』
今日の私って……ちょっと強気。
『うわっ、参ったな。麻耶ちゃん、もう話しちゃったんだ。』
それから、テレビの芸能レポーター気分で、神谷さんを質問攻めにした。
同棲がダメなら思い切って奪いに行こうと、結構前から決めていたらしく、サプライズでどこか貸し切るとか、そういうのもしてみようかと思ったけど、らしくなくて断念したらしい。
渡した指輪は、もちろんエンゲージ。これも、麻耶と付き合い始めてから早い段階で買っていて。
肝心の院長攻略は、ハッキリ言ってノープラン。ダメなものはダメだろうって思うけど、それでも麻耶のことが大切だから、それ以上のことは考えていなかったらしい。
だから、麻耶が嬉しそうに話してくれたプロポーズの言葉は、思い出すと恥ずかしくて……神谷さんはやっぱり鼻を摘まんだ。
『あぁ、もう!俺の話はここまでにしよ?……で、高梨さんはいつ、三浦 彩星になるの?』
『えっ?』
三浦 彩星……。
言い慣れない、聞きなれない名前は、まるで他の誰かの名前みたい。
『聞いてるんだよ、夏輝から。俺の実家のお店で、高梨さんのご両親に会っちゃって、改めて挨拶に行くって言ったらしいじゃん、アイツ。』
最近、仕事もプライベートもバタバタしてたから、すっかりその出来事を忘れていて。
『う、打ち合わせ、始めましょうか。……ね?』
形勢逆転、サヨナラホームランを打たれる前に、私は資料をテーブルに広げた。
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