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愛用の腕時計をした部長の左手と、指輪をした私の右手が繋がっている。
『今日は社内にいる予定だから、企画の件で何かあれば言って。』
『はい……あ、ネーミング浮かんだので、後で時間ください。』
『そうだったの?昨日、話してくれたらよかったのに。』
ククっと肩を揺らしながら意地悪に笑う部長が、昨日のことを思い出して歩幅が小さくなる私の手を引いて、横断歩道を渡っていく。
『じゃあ、また後でね。』
『はい。』
お互いの気持ちを確認するように、最後にキュッと握った手が離れた。
デスクに着いてパソコンを立ち上げる間に、自分の行動予定に変更がないことを確認する。
『彩星先輩、おはようございます。』
『あ、おはよう。葉月ちゃん。』
今年入ってきた、新入社員の葉月(ハヅキ)ちゃん。
麻耶みたいに小さくて、少しだけぷにっとした頬が愛らしい。
お人形みたいな容姿なのに、仕事モードになると男顔負けで。
さらに、社内の男性陣には全く興味がないらしい。
『おはよう。』
コンビニの袋を提げた部長が、挨拶を交わしながら私の後ろを通っていく。
いつも通りの朝の光景。
バタバタと外出の支度をする人、のんびりマイペースでコーヒーを啜る人。
他の部署と連絡を取る人、携帯をいじりながら欠伸をする人。
『高梨さん。さっきの件、準備できたら早速始めよう。これ、よろしく。』
部長の今日のスケジュールが書かれたメモを渡されて、ホワイトボードに向かった私は必要な分だけピックアップして箇条書きにする。
裏面まで続く一覧は、滞在予定が伸びて月曜午後までになっていた。
でも、火曜には日本を発つことが記されていて。
そして、末尾に書かれている一行。
『今朝の続きは、いつにしようか?』
シューっと、蒸気が上がったかと思うほど、頬が熱くなる。
デスクに戻って部長を横目で見たら、内線で誰かと話していて。
視線が合ったその瞬間、部長が舌を小さく覗かせた。
真面目に働いてるフリをして私を構ってくれる、そんな部長のことも。
悔しいけど…………大好きです。
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