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『あ、それから…木崎さんとした約束ってなんですか?』
『……ん?なにが?』
煙草でむせた部長が、動揺しているのが分かる。
『花火に木崎さんも来てて、私が悲しい道を選択したら、部長と約束した意味がなくなるって言ってましたけど。』
『彩星は知らなくていいの。』
『木崎さんもそう言って教えてくれないんだもん。』
『そうだろうな。俺が木崎さんだとしても、きっと同じように言うと思うよ。それで、決まった?別に急かすつもりはないけど、悩むだろうから話してくれていいんだよ。』
私の異動の話に変わって、約束のことは聞き出せなくなった。
『まだです。でも、チャンスだってことは感じてます。Love hunterも出だし好調だし、この前パリ支社からメールも届いて…。』
『なんて書いてあった?』
『パリ支社の遠藤部長からだったんですけど、赤崎さんから聞いてるって。最初に手伝わせてもらった坂本さんの企画デザインのことも。それから、Love hunterの発売のお祝いも言ってもらえて……。』
『それから?』
『是非、パリに来てもっと成長してほしいって。まだ決まってないけど、期間は2年を予定してますって言われました。』
『2年か。そうか。』
部長がベランダの窓を開けて、外に出た音がした。
『彩星と俺ならさ、きっと上手くやっていけるよ。そう思うんだ。だから、パリに行くって決めるのに俺との関係を心配することはないからな。』
『部長……。』
本当に、まだ迷ってるけど。
ずっと霧に隠れていた目の前の分かれ道が、ハッキリと見えた気がした。
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