113人が本棚に入れています
本棚に追加
『彩星……。』
キスの合間に、何度も私の名前を呼ぶ部長の声は掠れている。唇を合わせたままの、その瞳は少しだけ揺れているよう。
ただ視線を合わせて、言葉を待っていたら、もう1度触れるだけのキスが落とされた。
『ぶちょ…』
『夏輝って、言って。』
そっと髪を撫でながら、私がそう言うのを待つ部長は、摘むようなキスを止めてくれなくて。
『な、夏輝っ…。』
満足そうな表情で部長が私の手を引いて、そのまま寝室に入ると、背中から抱きしめられた。
『ねぇ、初めて俺の家に泊まった日のこと、覚えてる?』
『うん。覚えてるよ。』
開けたままのカーテンの向こうには、秋の月がぼんやりと霞んで、夜の海は、その青がまた朝日に照らされるのを待っている。
『あの日、彩星泣いてたでしょ?理由は聞かないけど……俺、約束するから。』
『約束?』
クルッと腕の中で半回転させられて、視界いっぱいに部長の顔が映る。
間接照明と外から入る高層ビルの灯りが、その表情を綺麗に照らした。
『もう、彩星のことをあんなふうに泣かせたりしないから。』
長い指の背が私の頬を撫でて、耳朶のNが指先で弾かれた。
『あんなに、辛く切なそうな気持ちにさせないから。だから、俺とこれからも一緒にいてね。』
『……はい。』
フワリと微笑んだその笑顔は、唇が緩やかに弧を描いたスマイルマークになって。
『……久しぶりに会えたから、大切にしようって思ってたんだけど……無理みたい。今夜は、俺の好きにさせて?』
脚が浮いて、抱き上げられた身体は、あっという間にベッドの海に沈められた。
最初のコメントを投稿しよう!