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『……決めたんだろ?』
少しの間、遠いところへ眠るように出掛けていた私を目覚めさせたのは、私をそっと抱きしめながら囁いている部長の声。
背中越しに聞こえるその声は、私の髪を僅かに揺らしながら、でも起こさないように気を遣っているトーンで。
『パリ、行くって決めてるんだろ?』
目が覚めたと知られてはいけない。
そんな空気が、シーツの中の2人を包んでいて。
『本当は、行ってほしくないんだ。
仕事なんか辞めたっていいから、俺の傍にいてくれたら……それでいいんだよ。』
そう言い残して、私の髪にキスを1つ落としてから、部長がベッドから出ていく。
点けたままだったリビングの灯りの代わりに、間接照明が点けられた。
ねぇ、部長。
行ってほしくないなら、もっと私を引き留めてよ。
決める権利すらないくらいに、奪ってほしいよ。
2人の気持ちも関係も、変わることはなくても。
一緒にいたいという素直な気持ちは、パリに行くと決めた気持ちを簡単に越えてしまうから。
後悔しない、私の進むべき道は、どっちなんだろう。
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