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パリ支社に勤務して1週間。 新入社員みたいに、右も左も分からない。 同じ企画部でも、環境が変わるとこんなにも違うものなのかと痛感する。 大学でフランス語を選択していてよかった。 得意じゃないけど、全く分からない訳じゃない。 本場のフランス語はなかなか聞き取れないけど、なんとなく言いたいことは分かる。 『高梨さん。』 こっちの企画部長、遠藤部長。 元々は日本で営業2課にいたけど、数年前からフランスでの生活が続いているらしい。 『はい。』 『早速だけど、1つデザインしてみないか?』 そう言って差し出されたのは、有名なブランドのパンフレット。 『姉妹ブランドを立ちあげるらしくてね。他社との競合だけど、もし通れば社のイメージアップにもなる。……どうかな?』 まだ渡仏して間もない私に訪れたビッグチャンス。 新しい私に会いたくて日本を離れた意味は、これなのかもしれない。 『やってみます。分からないことが多いので、質問が増えると思いますがよろしくお願いします。』 『そうか。日本ではできない大胆なデザインだって、こっちでは受け入れられるかもしれない。浮かんだものをどんどんアウトプットして、形にしていってくれ。期限は3ヶ月後。先方の担当との打ち合わせが近々あるから、スケジュールに余裕を持っておくように。』 『はい。』 日本みたいに海や高層ビルは見えないけど、ここからの景色も嫌いじゃない。 窓に近いデスクに戻って、早速ペンとノートを取り出した。 坂本さんから貰った、雫型のついた白いペン。 社名が掠れて薄くなっても、新しいものと交換したくなくて。 きっと、いいアイディアが浮かぶはず。 ゆっくり目を閉じて、入社した頃を思い出した。
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