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『そうですか。分かりました。ありがとうございます。』
フランス語で話していた遠藤部長が、唇をギュッと結んで薄らと眉間に皺を寄せたまま受話器を置いた。
『高梨さん。』
他の社員さんも作業の手を止めて、私と遠藤部長の声に耳を傾けている。
『例の件の結果が出たよ。』
今日は企画提案の回答が来る日。
3ヶ月間毎日考えて、時々客先に凹まされて、でも大好きだから必死でイメージを膨らませた。
客先、この町に住む女性、世界中の女性。
みんなが欲しいと思ってくれるようなものを目指した。
みんながこの新しいブランドに期待してくれるような、華々しいデビューが出来るものを。
『はい。』
口の中が乾いて、何も飲み込むものがないのに喉が上下した。
期待と不安、ショックに備えようとする脳からの指令。
呼吸することすら忘れてしまいそう。
『色々と条件があってね……まぁ、あれだけ大手の客先だからワガママなのは高梨さんも分かっているだろうけど。きっと他の競合先も、同じように苦労しただろうね。』
……ダメ、だったんだ。
遠藤部長の言葉と表情が、そう言っている。
客先の要望に応えられなかった。
他社の方が優れていた。
もっと頑張る何かがあって、それに気付けなかった。
諦めの気持ちを溜め息に乗せて吐き出したら、終わったことの安堵に似たような感情と悔しさが、じわりと目頭から湧いてきた。
『よくやった。』
遠藤部長が差し出した手に、俯き加減のまま自分の手を添えた。
『高梨さんの案が、採用になったよ。』
『えっ?!』
顔を思い切り上げたら、その勢いで零れていく涙。
『よくやった。でもここからが本番だよ。』
遠藤部長が私と握手しながら、他の社員さんに親指を立てるジェスチャーで結果を伝えると、周りから大きな拍手と歓声が私を包んだ。
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