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今年の秋冬に向けた企画が、仕上げの段階に入った。
香水に特化しているわけじゃないけど、客先がそれで推してきてるんだから仕方ない。
本当は、Love hunterみたいにコラボとかしてみたいけど、大手のブランドじゃ期待できないかな…。
100%自社のものとして売り出したいみたいだし。
この季節になると、次は春夏の企画も同時進行で進めなくちゃいけなくて。
気持ちも身体も、無意識に焦ってしまうことが多い。
『彩星、元気してるの?』
週末の早朝、まだ眠っていたい私を起こしたのは、ママからの電話。
『ん……今、何時?』
『15時だけど。』
『……こっち、まだ7時なんだけど。』
『お休みだからって寝過ごしちゃダメよ?』
『んー……最近ちょっと疲れてるから、まだ眠りたいの。』
もういい大人になったのに、どうしても親の前では子供に戻ってしまう。
ママのお小言も、離れて暮らすとありがたく感じられて。
私もいつか、部長とこんな風に家族になるんだよね。
なんとなく頭が冴えてきて、せっかく電話を掛けてきてくれたママと話すことにした。
『あのね、ママの1番大切なものって何?』
『なぁに、急に。そうねぇ…1つだけじゃなきゃいけないの?』
ちょっと恥ずかしがりながらも、考え始めてくれるママが微笑んでいるのが分かる。
『うん。失いたくないもの、でもいいけど。』
そうねぇ…ってもう1度呟いてから、少しだけ沈黙があって。
過ごしている時間の区切りが違っても、こうして共有できるんだ。
『パパと、彩星の笑顔かな。2人が笑っていてくれないと、ママ頑張れないのよ。……どうしたの?らしくない質問しちゃって。』
らしくない、か。
そうかもしれない。私、こんな話をママとしたことなかった。
いつも自分のことは自分で決めて、それを両親は応援してくれて。
その代わり、ちゃんと最後まで頑張ることを約束してきた。
だから、迷っているなんて、意外なんだろうな。
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