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私がパリに行くか悩んでいた頃のことが、自然と思い返される。
『本当は、行ってほしくないんだ。仕事なんか辞めたっていいから…俺の傍にいてくれたら、それでいいんだよ。』
って、ミラノから帰国した夜にそっと囁いてくれた、部長の本心。
『やっぱり行けば良かったって、いつか悔やむかもしれないから。
俺との時間は、また取り返せばいい。』
Calib STARで1課と部長の帰国をお祝いした日、そう言って本心を隠した部長。
『大丈夫。俺がついてるよ。これからずっと、寂しくさせないから。』
部長のことが好きになったあの場所で、突然プロポーズされた時。
あの日から、左の薬指に、2人の気持ちの証があって。
そして、パリに経つ日の空港のロビーでは、悲しい顔の私に、笑顔を見つけてきてくれた。
こっちに来てからも、近くに居られなくたって心が繋がっているって感じさせてくれた。
〈彩星にとって、大切なものが失われないよう、祈ってます。〉
ふと、最後に思い出したのは、冬也とあの公園の前で待ち合わせた翌日に、メールで言ってくれた言葉。
未来の自分にいくら問いかけてみても、答えなんか返ってこないけど。
でも、未来の自分が過去を振り返って、答え合わせをするって知ってるから。
だから、今の自分は正解を知りたくて悩む。
唯一、持ち合わせている答え。
大切なものは、失ってから気付くのでは、きっと手遅れだってこと。
後悔をするかどうかは、やってみてからじゃなきゃ分からないってこと。
私が選んだものが、諦めの1つなら。
そして、それが諦めだって認めなければ。
チャンスは、やってくるかもしれない。
いつか、きっと。
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