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今朝はいつもより1時間早く起きた。
正確に言うと、1時間早く目が覚めてしまったんだけど。
日本は15時頃。
今なら、話せるかもしれない。
もしかしたら打ち合わせが入ってしまったり、急な来客対応をしているかもしれないけど。
昨日のうちに、この時間帯に連絡するってメールしておいたから、きっと大丈夫。
ベッドに膝を抱えて座って、充電のアダプターを接続したままの携帯を手にする。
部長の社用携帯の番号を表示させた、携帯画面。
バックライトが眩しくて、思わず眉間に皺が寄った。
あ、あの時みたい。
部長が、初めて携帯にメールをくれた朝。
諦めようとして、麻耶に励まされて、結局揃って泣いて……目が腫れていた朝。
『よしっ…。そろそろ話さないとね。』
誰もいない部屋に、ただ1人いる自分へ話しかけた。
『……三浦です。』
『彩星です。今って大丈夫?』
『ごめん、ちょっとこのまま待ってて。』
懐かしい音がする。
ザワザワとした、企画部内の音だ。
そして、音が切り替わって、カツカツと響いて聞こえるのは、部長の靴の音。
廊下を歩いているのかな。
ちょっと途切れた電波。
そして、数秒後に、また良く聞こえるようになって。
『ごめん。屋上に移動してた。』
『うん。ごめんね、忙しい時間に。』
『……今日だったよな、リミット。』
『昨日の帰りにね、遠藤部長には伝えたの。
朝1番で報告しないと間に合わないから。』
部長が煙草を吸って、煙を風に乗せる音がした。
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