232人が本棚に入れています
本棚に追加
やっぱり、俺の予感は的中した。
適材適所という、社の方針に彩星が引っ掛かった。
少しも悪いことじゃない。
必死で頑張って、正当に評価された結果なんだから。
日本での活躍も評価されたけど、社としては大口の契約がかかってるから、彩星をパリに置いてこれからも取引していきたいってとこだろうな。
会社って、そういうものだから。
『……企画部 三浦です。清水さんはいらっしゃいますか?』
怒りとも違う、何とも言えない気持ちが胃の辺りを不快にさせる。
俺は、あの日言ったはずなんだ。
『三浦部長、お疲れさまです。』
人事課の打ち合わせ室。
ここに入るのは、入社した時と、ミラノ行きが決まった時以来。
自分の部下のことで、ここに入る立場になったんだって、改めて実感する。
『お忙しいでしょうから、手早く話します。清水さん、私との約束は、まだ覚えていらっしゃいますか?』
『…高梨さんのことですね。覚えています。』
『だったら、どうして期限の延長でもなく、パリ支社に置くことになるんですか?』
思わず声が大きくなってしまいそうになるのを、グッと堪えた。
余計に、胃の辺りが気持ち悪くなったのは言うまでもない。
『三浦部長の元にお返ししなくてはいけないと、私も思っておりました。企画部において、これからの発展に必要な方なのでしょう。
しかし、あれだけ大手のブランドと、あんな大口の契約が締結できたんです。それは、高梨さんがパリにいなかったらなかったことかもしれません。それだけのこと、とは言いません。でも、それが1番の理由だという事は事実です。』
考えていた通りの回答。
そんなことが聞きたいんじゃない。
『清水さん、さすがに私の立場になれば、それくらいのことは分かりますよ。会社の利益を考えたら、それが最良でしょう。』
『でしたら、異論はないということで宜しいのでしょうか?パリ支社の遠藤部長も、高梨さんを欲しがっています。栄転なんですから、きっとご本人も……。』
違う、そうじゃない。
パリに送り出したあの時とは、もう違うんだ。
『申し訳ない。清水さん、私から1つお願いがあります。』
最初のコメントを投稿しよう!