Love hunter

8/25

232人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
バレンタインで出した桜の練り香水。 時期的に春向けだから、企画を温存して来期に持ち越すことになった。 今から動いたところで、客先が納得できるようなものを出すことは不可能だし、客先も満を持しての発売にしたいと言ってきた。 公園の桜は緑に変わって、セーヌ川の水面が今日も穏やかに光を乱反射させている。 客先に寄った帰り道に、デパートにちょっとだけ寄ってショッピングをしたら、意外と荷物が大きくなって。 仕方なく1度アパルトマンに戻ることにした。 肩に掛けた荷物を背中に背負うようにして、オートロックを開ける。 そう言えば、部長が来てくれた時、鍵を無くして焦ったんだよね…。 私は部長といたから、家に入れないかもしれないのに、不安は感じなかったけど。 リビングに荷物を置いてから、ジュースを一口飲んで、それからまた会社に戻ろうかな。 テーブルにグラスを置いて、両手であの時みたいに小さな長方形を作ってみた。 酔っていたけど、ここから見た部長は、すごくカッコよかったんだ。 またこうして覗いて、そこに部長がいたらいいのにな……なんて、いるわけないんだけど。 今、この長方形から見えるのは、この約1年で部長が送ってくれた、付箋のラブレターの星たち。 ふと、その中の1枚が気になって。 ソファーから立ち上がって、コルクボードのピンを抜いた。 どうしても気になったその1枚は、最新のラブレター。 最後に、私を世界で1番幸せにしたいって書いてくれた付箋。 もう何度も何度も読み返したから、一語一句記憶しているくらいなのに、今どうしてもこの付箋だけが気になって。 Ton sourire de chaque jour suffit pour faire mon bonheur. 徐に裏返して見つけたのは、まだ読んだことのないメッセージ。 ー毎日、貴女の笑顔が見られたら、それで私は幸せですー 部長……。 私が笑顔でいるには、どちらを選んだらいいんだろう。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

232人が本棚に入れています
本棚に追加