8月14日

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とっくに日は落ち、街頭の灯りと月明かりだけが照らし出す仄暗い道を学園の職員寮に向けて歩き出そうとして、はたと気が付いた。 そういえば…。 「……昨日から同居、してるんだっけ…」 そう。 俺は昨日まで職員寮に入っていたのだが、ちょうど昨日の昼頃、たまたま仕事(…仕事、ということにしておいてほしい)で一緒だった親友に不規則な食生活が露見し、心配した親友が半ば強引に同居を決めてさっさと理事長に話をつけ、その日のうちに職員寮を解約してしまったのだ。 本当は同居など、あいつとあいつの同居人に迷惑がかかるから断るつもりだったのだが… 「……あんな顔されて、断れるやつがいるかっての…」 『唯一の親友がそんな不健康な食生活してて、黙ってられるわけねーだろ』 『お前が早死にしたら俺が寂しいから…』 そう言って、あいつはじっと俺を見つめてきたのだ。 いつも無表情で、死んだ魚のような目をしたあいつが。 眉を寄せ、その綺麗な深緋の瞳に、俺を映して。 まるで意中の女性を口説き落とすような、普段は絶対に見せない表情と優しい声音に、気づけば俺の口は勝手に応と返事をしてしまっていた。 はっと気づいた時にはもう遅く、あいつは今まで親友として一緒に過ごしてきた中で一番の笑みを見せ、何も言えなくなってしまった俺を早速夕飯の買い出しに引っ張って行った。
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