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…そういえば。
「あ…悪い。今日中に提出しなきゃいけない書類引き受けちゃって…」
同居を始めたことをすっかり忘れていたために、同居人への連絡も失念していた。
「残業してたらこんな時間になった…と?」
「うん…ごめん」
自分より少しだけ高い位置にあるイグナの顔を見ながら謝罪する。
今回は全面的に俺が悪い。
イグナはしばらく黙って俺を見つめていたが、急にふっと優しく笑い、ぽんと俺の頭に手を置いた。
「別に怒ってねェよ。ただ…定時に終わるって言ってたのにこんな時間になっても帰って来ねェから、なんかあったのかと思って…心配した」
…俺の不注意のせいでいらぬ心配をかけてしまったらしい。
何もなくて良かった、と安心したように微笑むイグナに、申し訳なさがこみあげて思わず目を伏せた。
迷惑はかけたくないと思っていたにも関わらず、同居二日目にして早くもこれだ。
「…ごめん」
「もういいよ。でも…」
口からこぼれ出た再度の謝罪に、イグナは俺の頭から手をどかせ、
「次からは、遅くなりそうならちゃんと連絡しろ。な?」
「って」
ぺちん、と俺の額に軽いでこピンをした。
「…うん」
俺は額を押さえながら、優しく笑うイグナにこくりと頷いた。
「さ、じゃあ帰るかー」
「ああ」
イグナの優しさに感謝と少しの罪悪感を感じながら、俺はイグナと二人、仄暗い道を家に向かって歩き始めた。
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