8月14日

8/14
前へ
/612ページ
次へ
アモルは笑顔でそう言って、またぱたぱたと階段を駆け上っていった。 アモルにまで心配をかけていたと思うと申し訳なくて、知らずため息がこぼれる。 するとそれが聞こえたのか、横からイグナに軽く小突かれた。 「おいおい、俺が聞きてェのはため息じゃねェんだけど?」 呆れたように言われ、俺はきょとんとイグナを見返す。 「…あ、」 少し考えて、久しく口にしていなかった言葉に行き着いた。 「…ただ、いま?」 口にするのが久々すぎて少々突っかかってしまったが、イグナは俺の頭にぽんと大きな手を乗せる。 そして、 「ああ、おかえり!」 そう言って、イグナは優しく微笑んだ。 その言葉が懐かしくて、俺は思わず視線を落とした。 「どうした?」 「…いや、何か…家族、みたいだなって」 言ってしまってから恥ずかしくなって思わず視線を逸らす。 イグナは一瞬驚いたのか黙ったが、すぐにははっと笑った。 「何で笑うんだよ…」 「いや、だってさ。今更何言ってんだよ」 「…は?」 「俺はもう家族だと思ってるんだけど?」 「へ…」 予想外の言葉に驚いて視線を上げると、イグナは同居を決めた時と同じ、とびっきりの優しい笑顔で俺を見つめていた。 その表情に心臓がどきりと不穏な音を立て、俺は見ていられなくて再び視線を逸らした。
/612ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加