8月14日

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……そういえば、学園に押し込められてから今まで、グレることもなくまともに過ごしてこれたのはイグナのおかげかもしれない。 学生時代から何度助けられたことか。 家のことでちょっかいをかけられてクラスで孤立した時も、イグナはあの人を食ったような笑みでクラスメイトを蹴散らしてくれた。 時々母を思い出して泣きたくなることもあったが、そんな時は何も言わずに隣に座って俺が泣き止むまでそばにいてくれた。 イグナと出会ってからは、父親の幻影が夢に現れることも少なくなった。 「…ほんと、お前に助けられてばっかだよな…」 今回だって、不健康でいつ身体を壊してもおかしくないような生活をしていた俺に…こうやって手を差し伸べてくれた。 それだけではなく、俺が諦めていた『家族』という存在をくれたのだ。 感謝をしてもし足りないくらい、イグナにはずっと助けられている。 「……」 俺の、最初で、おそらく最後であろう親友。 いつもは気恥ずかしくて、言えないのだけれど。 いつかは、面と向かって言えるようにするから。 だから今だけは。 「……俺の親友でいてくれて…家族にしてくれて、ありがとう」 眠るイグナの頭に触れ、意外に柔らかい銀髪を撫でる。 そのままするりと梳くと、イグナが小さく身じろぎした。 「…ん…」 くすぐったそうに漏れ出た声にはっと我に返り、慌てて手を退ける。 「…起きてないよな?大丈夫だよな?」 恐る恐る様子を窺うが、イグナは軽く身体を動かしただけでまたすよすよと寝息を立て始めた。 完全に寝入っているのを確認し、ほっと息をつく。 「俺ももう寝るか…」 後からじわじわくる恥ずかしさで顔が熱い。 それから気を逸らすように呟いて、イグナをこのままにするのも可哀想だと思い上にかけるものを探す。 ランプの灯りだけを頼りに周囲を見回すと、ソファに乱雑にかけられたタオルケットが目に入った。 足元に気を付けながら回収し、机まで戻る。 若干しわになったそれをそっとイグナにかけ、もう一度だけ髪を撫でた。 その触り心地に頬を緩め、ランプを消す。 そして開けっ放しの扉の外から入ってくる常夜灯のかすかな灯りだけを頼りに部屋から抜け出し、 「…おやすみ、イグナ…」 そっと呟いて扉を閉めた。
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