9月1日

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寝こけるセリウスを部屋まで運び、きちんと整えられた寝台に寝かせる。 「…ん…」 小さな声が漏れ、起こしてしまったかと思ったが、軽く寝返りを打っただけですぐに寝息が聞こえてきた。 「…まったく…」 ふう、と息をつき、なんとなく部屋を見回してみる。 綺麗に整頓された部屋には、必要最低限のものしか置かれておらず、何だかがらんとして見えた。 「んむ…」 「…ん、俺もそろそろ寝るか…」 ふと聞こえたセリウスの声に、視線を戻す。 時計を見ると、すでに日付は変わっていた。 寝返りを打ったために捲れてしまったセリウスの服を直し、掛布団をかける。 そのまま自室に戻ろうと踵を返… 「……ん…いかな、で…」 「!」 しかけ、何かに引き止められて思わず振り返った。 見ると、寝ていたはずのセリウスが俺の服の裾をつかんでいた。 「セリ…?」 驚いてセリウスの顔を覗き込む。頬にかかる髪を払うと、閉じた瞼から零れた滴が頬を伝い、シーツを濡らしていた。 「…かあ、さ…」 かあさん、と。 唇から零れた言葉に、目を見開く。 セリウスの過去の話は聞いていた。彼の母親がすでに亡くなっていることも、家から追い出されるように学園に入ったことも…彼が、家族を失ったことも。 ……だからだろうか。彼の遠慮を押し切って同居を決めたのは。 確かに一人暮らしをしているセリウスの壊滅的な食生活を、親友として何とか改善してやりたいと思ったのは本当だ。 同時に、彼の家族になりたいと思ったのも。 …同情だと、思われるだろうか。 だが、ただの同情で『家族だと思っている』と言えるほど、俺は優しくはないつもりだ。
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