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時は十月の初旬。秋風が冷たく吹く時期だった。普段は馴染みのない真っ白な燕尾服を着替え終えた俺が、窓を覗くと、外には大きな銀杏の木が突っ立っている。十月の秋風を表すかの如く、ひらひらと銀杏の葉が舞っていた。その日はそれにも負けずひんやりとした空気には眩しい程の太陽が照らした快晴の日。この日に相応しいある出来事があったのだ。それは―――
「りょーた、入るよー。」
コンコンとノックを叩いて俺こと古川涼太の名前を呼んで入ってきたのは、一人の女性だった。アップに束ねた髪、シンプルではあるが可憐で純白のドレスに身を包み、履きなれていない白いヒールの靴をコツコツと鳴らしながら、少し桜色に染めた頬で彼女はこう言う。
「ど、どう……?似合う…かな?」
照れ隠しにそう俺に尋ねた後、彼女はただでさえ染めた顔が蛸のように真っ赤になって「やっぱりこんなこと聞くの恥ずかしい」と顔を覆う。そのはにかんだ動作が可愛く見えてしまった俺はフッと笑ってしまい、
「とっても似合っているよ。」
そう即答した。「絶対嘘でしょー」と彼女に罵倒されながらも。
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