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車か何かに下敷きにされたかのように背中を轢かれた跡があり、身体中から全身出血したままうつ伏せになって倒れている拓海。そして、そんな彼に守られるかのようにして、麻悠が虚ろな瞳で仰向けになって倒れている。彼の流した血がかかったのか同じようにに彼同様に車に轢かれたものなのか彼女も彼と同じように血を流していた。
俺達二人がその現場を目撃した後ろで千夏も彼女が言っていた匂いの正体が血であることに気づき、そして今目の前に映っている拓海と麻悠の凄惨な姿を見て(特に拓海の方を凝視して)半泣きしそうになっていた。
「嘘……でしょう…………?」
目の前にある光景が信じられず、千夏がそう声を漏らし、加えて現状に耐えきれなかったのか足元がふらつき、隣にいた直敏にもたれかかってしまった。(その横で直敏に支えながらも)
それもそのはずだ。なぜなら、俺達が見たその光景はーー血塗れになった彼らだったのだから。
「おい、嘘だろ…拓海…?麻悠…? しっかりしてくれ!二人とも!!おい!?おいってばっ!?」
「落ち着けよ、涼太!そんなにゆすったら悪化するかもしれないだろ!」
俺が強く彼らを起こそうと必死に体を揺する中、明人が狼狽えながらも正しい意見を俺に言った。そして、「まだ息をしているかもしれない」と明人はすぐさま救急車を呼ぼうとスマホを取って医者にかけ、直敏は精神不安定状態になった千夏を支えながら明人に伝言を伝え、俺達を後にして店へと向かっていった。
その一方で、俺は千夏同様にただ自分の目の前の出来事が信じられず茫然と突っ立っていることしかできなかった。
その後、麻悠は奇跡的に一命は取りとめたが、拓海の方は大量に出血してしまっており、既に取り返しがつかない状態となっていた。
十月四日、土曜日。その日は、俺と麻悠の結婚した日だった。しかし、同時にこの日は拓海の命日ともなったのだ。
桑田拓海、享年二十一歳。この世を去るには、まだ早過ぎる歳であり、勿体ない人間であった。
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