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十月中旬、拓海の通夜の日。
身内しかいなかった会場内は物静かでこじんまりとしたものだったが、急な訃報だったのか、その空気はだんまりとして重苦しくただでさえ悲しい現場が一気に物悲しくさせるものがある。
「おにいちゃあんっ……」
まだ中学生ぐらいの少女が彼の遺影を見てむせび泣き、それをなだめようとする母親。そして、涙を堪えて顔を上を向く父親。彼らは、拓海のご家族――つまり、桑田家の遺族にあたる人達だ。
生前の彼は、大変裕福な家庭であり有名なサラブレッド一家でもあった。父は知名度の高い放送作家、母はカリスマ美容師、妹である美玖はそんな両親を追って芸能関係を目指したかったのか現在は今注目されている人気ファッションモデルである。
そんな彼らと比べると、拓海は目立たなかったが彼にも有望な将来が期待されていた。それは、父親と同じく放送作家を目指すことだった。
そして、作家の世界は厳しいということも知っていた彼は視野を広げるためにT大学へ合格し、大手放送局であるFテレビに内定が決まったところだった。
勉強熱心だけでなく、コミュニティー能力も高めるために母親の美容師の手伝いをしていたりもした。その慣れた手つきもあってか、よく妹のヘアセットをしたりと器用さがあったことも見たことがある。そして、何よりの彼の長所は、妹思いだっただけでなく家族思いでもあったことだ。
家族にも、友人にも、そして恋人だった人にも分け隔てなく接し、愛されていた彼だった。
そんな彼が、なぜ死ななくてはならなかったのか。
神様は、どうしてこの世にいなくてはいけない人材を連れていってしまうんだ。
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