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いつもの麻悠と違って大人しく、よそよそしい態度をとっていた彼女に俺もご家族も最初は戸惑っていたが、彼女を落ち着かせつつもゆっくりと事の韻末を説明した。
すると、やはり想定していたことではあるが、彼女は驚愕しながらも彼女なりに一生懸命理解しようとしていた。
その退院の直後、病み上がりのまま拓海の通夜に参加したのだ。まだ体調が芳しくない時期なのに皆に気を使わないでおこうとしている。でも、その心境はとても複雑なものだろう。
なぜなら、自分は記憶喪失だけですんだというのに、もう一人の、しかも幼なじみだった彼はそのまま死んでしまい、おまけにその彼の臓器で助かっているのだから無理もないことだろう。
「麻悠、ごめんな。一番辛いのは、本当はお前なのに…」
俺は気を使ってそう声をかけると、麻悠はたどたどしくもこう答えた。
「い、いえ…。私はその、大丈夫だから……。」
そして、そのまま俯く彼女。大丈夫なわけがあるか。たったこの間まで俺とお前は親友に祝福された後、その日にその親友を失い、お前は俺とともにその事実を聞かされたんだ。
こんなの、別の意味で一生忘れられない結婚式になっちまったじゃねえか。俺にも、麻悠にとってもだ。笑えねえよ、こんな結婚式。
俺はただただ悔しくて悔しくて、そうして後悔と罪悪感に苛まられていくうちにその日の通夜は終わった。
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