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俺は、先頭に立って歩いた麻悠に連なってリビングへと向かう。
着いた場所は、当たり前にリビングであり、そこにあったペアで買ったソファを互いに座り、向き合う。ふと向き合ったときの麻悠は真剣な眼差しで俺を見つめていた。
「いきなり何だよ、麻悠。」
俺は訳も分からずそう尋ねると、次に彼女はこんなことを言ってきたのだ。
「あのね、涼太…私、記憶喪失になっているって言ってたよね?」
「ああ、だいぶ記憶を取り戻しているのも聞いていたけど、まだぽつぽつだったんだよな?」
「う、うん……まあ………そのことなんだけどね、実は私記憶なくしてなんかなかったの。」
衝撃の事実だった。麻悠は確かに記憶喪失だって聞いたのに、医者からも脳に損傷を来していると言っていたのに記憶喪失じゃない、だなんて…。
「な、何を言っているんだよ……」
「そうだね、何を言っているかさっぱり分からないよね…。じゃあ、正直に言うよ…。辛いと思うけど、落ち着いて聞いてね…。」
俺は頭の中で困惑していたが、麻悠は段々と後ろめたい様子で暗い表情を浮かべた後、思い切ってこう言い出してきた。
「私……いいや、実は俺なんだ。俺なんだよ、桑田拓海なんだよっ!あのとき、俺は麻悠の体に乗り移ってしまったんだ!でも麻悠は、麻悠は…………」
そうして、麻悠の姿で顔を覆って泣く拓海。
このとき、俺は信じたくなかったが、確信したのだ。
死んでしまった拓海は麻悠の身体を借りて生き返り、麻悠は拓海として死んでしまったことを。
こうして、ここから花嫁のいない、長き新婚生活は始まった。
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