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「みんなーー! 遅くなってごめ………むがっ」
境内中にこだましかけた声が無理矢理消された。
五段ばかりの石段を駆け上って来た坊主頭に、狛犬にもたれていたツンツン頭が飛びついた。有無を言わさず回した腕で頭部を締め上げる。
「ホント、遅ぇよ、浩太」
「孝夫だって、来たの、集合時間より後だったくせに」
つい口から出た本音に孝夫がぎろりとアタシを睨む。それに負けず相手の顔を睨み返すと、真ん中におかっぱ姿が割り込んだ。
「やめなよ、二人とも」
「孝夫も茜もそんなに大差なかったよ。浩太はさすがにちょっと遅かったけど、そんなにめいっぱい待ったって程じゃないから、全員揃った、でいいんじゃないかな」
「正彦?。ありがと?」
孝夫の腕を振り払った浩太が、優しく場を収めた眼鏡少年に頭を下げる。その顔が上がれば、もう全員が根にもたない笑顔だけ。これがいつものアタシ達だ。
アタシ達はうんとちっちゃな頃からいつも一緒の幼馴染五人組だ。性格はばらばらだけどすっごく気が合って、たいてい一緒に行動してきた。でも、それも後ほんの半月程度で終わり。
もう少ししたらアタシ達は小学校を卒業する。当然、みんなで同じ中学に入学して、そこからもずっと一緒。そう思ってたんだけど、六年生の夏休みを迎える少し前に、突然正彦がこう言った。
「ボク、中学は、隣町の私立校に通うことになったんだ」
隣町には普通の中学だけでなく、名門て呼ばれる私立の中学校がある。そこに通っているのは頭のいいお金持ちの子ばかり。そんな学校に行くって聞かされてびっくりしたけど、すぐにアタシ達は正彦ならと納得した。
正彦のお父さんは弁護士で、何人もの弁護士が働いている大きな事務所の所長さんをしている。正彦はそんなお父さんが大好きで、大きくなったら自分も弁護士になるっていつも言ってる。そのために誰よりも勉強して、学校ではずっと成績は一番だけど、弁護士を目指すならいい高校、いい大学に入った方がいいから、中学からは私立に通ってもっと難しい勉強をしたいんだって。
「みんなとはずっと一緒にいたいけど、ボク、将来はお父さんみたいになりたいんだ。だから、中学からは私立に通うことにしたんだ」
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