カルネアデスの舟板

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 頭のいい正彦がうんと考えて、そして自分で決めたことだもの。アタシはもちろん、加奈にも孝夫にも浩太にも文句はなかった。誰も特には口にしないけど、同じ学校に通えなくてもずっと友達。その考えはみんな一緒だったから正彦への態度が変わることはなかった。…ううん、違う。半年したら離れちゃうって知って、アタシ達はこれまで以上に一緒に行動することが多くなった。  今日はそんな幼馴染五人の、これが最後になるだろう冒険の日。  卒業式までだいたい半月。普通に地元の中学に行くアタシ達と違って、正彦は新しい道へ進むための準備が忙しくなってきた。多分、今日の休みが過ぎたらもう、学校の中にいる時くらいしか話したりもできなくなりそう。だからみんなで決めて、アタシ達は最後の冒険に出ることにした。 「…なぁ、本当に行くのか?」  ささやかな騒ぎが収まって、さあ出発となった矢先に浩太がそんなことを言い出す。 「何だよお前、怖いのか? あ、だから遅れてきたんだろ。行きたくなくて、それで…」 「違うよ!」  孝夫が浩太をからかい出す。それを仲裁するのはたいていアタシの役目だけど、今日は先に加奈が動いた。 「でも、浩太の気持ち、ちょっと判る」 「だよなー」  味方を得た浩太の相槌が力強くなった。その態度に、孝夫が加勢しろとばかりにこっちを見たけれど、アタシは何も言わず、穏やかだけど知らん顔を決め込んでいる正彦を真似た。  わくわくはしてる。だって冒険だもの。でも、浩太や加奈が言うように怖いって気持ちもある。なにしろ今日の行く先は、子供の間で…ううん、大人にすらお化け屋敷って呼ばれる場所なんだから。  アタシ達が住んでるのは、眺めのいい高台…って言うとカッコいいけれど、本当は、山に近いから当然のように高い場所に集落があるっていうだけの田舎町だ。  土地がもう少し低い駅前の方は、繁華街って呼べる場所もあるくらいには栄えてるけど、アタシ達が暮らしてる辺りは結構な田舎。  小学校を中心に住宅地があって、駅に向かう側には商店街とかがあるけれどそれ以外は畑ばっかり。年柄年中何かしらの野菜が植えられていて、ウチは農家じゃないけれど、知り合いのおばさんとかが季節ごとに違う野菜をくれるから、お母さんはいつも大助かりだって言っている。
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