カルネアデスの舟板

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 後、畑以外にあるものは、何もない原っぱとか広い河川敷とか浅めの川とか、ともかく自然。人工的な公園も住宅地には二つばかりあるけれど、アタシ達子供の認識では、そこは幼稚園や低学年の子を遊ばせる場所で、三年生くらいからはもうみんな、ほとんど公園には行くことなく、他の場所ではしゃぎ回るのが普通だった。  校庭だけじゃ、遊び場としては狭いもん。空き地や河川敷ののびのびした広さはうんと駆け回るのに最適だし、浅すぎて危険なんかほとんど感じない川も、夏場とかは涼めるステキな遊び場だ。  中学生になるとまた変わるけど、小学生の行動範囲はそんな感じ。アタシ達五人も当然ながら、そういった場所で遊ぶ小学生の一人だった。  でも、どこで遊ぶのも自由だったけれど、一か所だけ近づくなと言われていた場所がある。それが、広い畑の背景みたいに存在している山だった。  なんとか山脈…そう呼ばれるような高さじゃない。用事のある大人がたまにたやすく入り込む程度の、たいして高さも険しさもない山。  熊がいるとか、そういう話はさすがに聞いたことがないけれど、自然の山だから何か野生の動物がいてもおかしくはなくて、それがイタチとか狐くらいなら、人間を見たらまず逃げ出すからいいけれど、もしも猿がいたら食糧狙いで襲ってくることもあるだろうし、猪ならなお危険。そうでなくても、緩やかでも斜面を転がり落ちたら怪我をするし、崖だったら命に関わる。何より、山自体がどこかの地主さんだかの所有地だから勝手をするなと、山にだけは絶対入らないよう、ここいらの子供達は誰もがきつくそう言われていた。  そんな、向かうことさえ咎められる山に、今からアタシ達は禁を破って向かおうとしている。目的の『お化け屋敷』を目指して。  お化け屋敷というのは、山の近くにある、四方を白く高い壁で覆われた謎の場所の呼び名だ。  壁の中に何があるのか、学校で誰に聞いても知ってる子はいない。大人に聞いてもさぁ?と言うばかりではっきりした答えは返らない。  今はもう閉鎖された病院があるとか、明治時代に建てられた洋館が廃墟になってるとか、戦争時代の軍の施設の跡地だとか、囁かれる噂の中身はマチマチで、実際のところは謎のまま。  謎を探るために、もういったい、どれだけの数の子供が言いつけを破ってお化け屋敷探索を試みたことだろう。
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