カルネアデスの舟板

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 かくいうアタシも、二年前の夏休みにクラス全員の合意で件の場所に赴いたことがある。というか、うちの小学校に通っている子及び、かつて通っていた面々の中に、一度もお化け屋敷に行ったことのない人間なんて多分いないと思う。それでも壁の向こうに何があるのか誰も知らない。  …四年生の時のことをちょっと思い出してみる。記憶に甦るのはひたすら続く凄い高さの白い壁。聞いた話では、壁を伝って歩いて行くとめちゃくちゃ大きな門があるらしいけど、アタシはそこまで辿り着けなかった。あの時は冒険より肝試しの色が強かったから、出発したのが夕方近くで、薄暗がりの中にどーんとそびえる白壁を見ただけで心が挫け、逃げ帰ることしかできなかったのだ。  でも、今日はあの時とは違う。六年生になったアタシはもう壁の高さくらいじゃ怯まない…と思うんだけど、…うん、きっと大丈夫。あれから二年。背も伸びたし、あんまり嬉しくないけど成長って意味で体重も増えた。体力だって増したし、多分、度胸もあの時よりはある。それに何より、今日は心構えが違うもの。  あの時は興味本位の肝試しだった。でも今日は正彦と一緒に冒険ができる最後のチャンスなんだもの。  絶対に怖がって逃げたりしない。そう腹をくくってアタシは…きっとみんなもここにいる。だから誰一人欠けることなくこの神社に集まった。  小学校からそこそこ山の方へ歩いた場所にある小さな神社。一応ここも行動範囲の内ではあるけれど、冬場でも木々が茂ってちょっと薄暗いここは、正直、子供の遊び場にはあんまり向いていなかった。そうでなくても神社で騒ぐなんて気が引けるから、普段はここに近づく子はいない。  だからこそこの場所は、今日の集合場所として好都合だった。  畑一帯は基本的に見晴らしがいい。そんな場所を五人でのこのこ山に向かって歩いていたら、たちまち大人に見つかって注意されてしまう。でも、単独行動でいったんここに集まれば、この先人に出くわすことはほぼなくなるから、山の方にはうんと行きやすくなる。 「じゃ、みんなそろったことだし、行くとしようぜ」  集まったのになかなか動き出さなかったせいか、しびれを切らした孝夫がうながす。それにこくこくとうなずき合い、アタシ達は神社を離れた。
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