カルネアデスの舟板

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 神社の位置から山の方へ行くルートは二つ。一つは、正面の石段前の道を真っ直ぐに東へ進み、もっとずっと行った先で、アスファルト舗装と砂利道の二岐になった所を、砂利道側に進むルート。こっちは、下は砂利でも車が通れるくらいの広さがあるから、用事で大人が山に入る時に使うルート。そしてもう一つは、神社の裏手にある、この近所に住むごく少数の人達だけが抜け道的に使っている、荒れ放題の細い裏道だ。  この裏道は、整備なんて言葉とはまるで無縁の、冬だというのにまだまだ雑草が生えまくりの獣道そのもののルートで、おまけにちょっときつめの登りだから、一番動きやすい運動靴を履いていても進みにくいことこの上ない。でも、だからこそ、人がいないって意味ではばっちりで、お化け屋敷に向かおうって子供はみんな、ひぃひぃ言いながらもここを通ってる。というか、舗装道路からのコースは必ず誰かの目につくので、そっちを使ってこっそりは百パーセント無理。許可なんてもらえない以上、お化け屋敷に子供が向かえるルートは実質こっちだけだから、辛くてもこの道を進むしかない。  そういえば前に正彦が、大人達が、小学生の冒険を薄々気づきながらも見て見ぬふりをしているのは、ここを通らないと目的地へ進めない=ここを登り切るくらいの体力がついてる年齢なら、あの壁の所まで行って来るくらいは問題ない。そう思ってるからだとか言ってたっけ。  今ふと思い出したけど、それはなんだか判る気がする。低学年は、さすがにあそこまで行くのは厳しいもんね。  そんな、勇気と同じくらい体力の有る者だけを受けつける、冒険者並びに肝試し組ご用達の道を息を荒げながら進み、どうにかアタシ達は、小道が山ルートの本道である砂利道とぶつかる地点へ出た。 「あれ?」  先頭を歩いていた孝夫が声を上げ、立てられている板切れの側へと駆け寄った。すぐにアタシ達も肩を並べ、追いついた孝夫の隣でそれを見た。  そこに置かれていたのは、一枚の板を真ん中で折り曲げた、横からだと三角に見える形の看板だった。真新しくはないけれどそんなに汚れていない白地に、こちらもかすれた様子のない赤色の文字で『立ち入り禁止』と書かれている。  こんなの、二年前にはなかった。
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