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「ああ、今から帰る。」
静かな車内に携帯の切れる音がする。
「本家からですか?」
運転席の男は問いかける。厳つい見た目からは想像できないような優しい声音で。
「ああ。」
後部座席の男は表情1つ変えない。
「今日は本宅にお帰りになりますか?」
「いや。」
「では、明日朝お迎えに上がります。」
「あぁ。」
単語と文章の会話が成り立つ。長年の付き合いを感じる会話だ。
「それにしても、激しい雨ですね。今週はずっと雨の予報でしたよ。嫌になりますね。」
と、運転しながら空を見上げる運転手。
フロントガラスには激しく雨が打ち付け、ワイパーは最高速度で動いている。
そんな雨の中、車はいつもの道を進み続ける。
とその時、
「止まれ!!」
後部座席の男がいきなり大声をあげた。運転手は素早く車をストップさせる。
車が止まるか否かのところで、大雨の中男は後部座席から飛び出した。車の後方、道路脇の茂みに向かって走り出す。
運転手も素早く後を追う。
「若!どうされました!」
運転手は雨に遮られる視界の中、前にいる若に叫ぶ。
若と呼ばれた男は辿り着いた茂みから小さく白い少女を抱き上げた。
足からは夥しい出血。体温も感じられないほど真っ白な肌。冬の前とはいえ、肌寒いこの季節にボロボロのワンピースを一枚着ているだけの少女。
その瞳は固く閉じられている。
「運ぶぞ!洸(コウ)を呼べ!」
若は少女を抱き抱えると車まで急ぐ。
「おい!大丈夫か!!おい!」
声をかけるが反応がない。
暖めるためにと自分の上着を少女にかけ、抱き締める若。
運転手は動揺しながらも携帯を片手に車に戻り通話しながらアクセルを踏む。
「洸!若の別宅だ!一式持ってこい!15分でつく!」
携帯を助手席に放り込むやアクセルを全力で踏む。
「若飛ばします!」
声と同時に車は加速する。
「おい、しっかりしろ!」
後ろでは若がしきりに少女に声をかけるが返事は一切ない。
「頼む。生きてくれ。」
小さな願いが響いた。
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