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「とりあえず、安定してる。」
洸は往診道具を鞄に直し伝える。
「でも、足の傷は酷いね。おそらくしばらくは歩けない。骨とかが折れているわけじゃないからその内きちんと歩けるようになるよ。でも時間が掛かる。」
一旦区切ると少女の方を見る。
「衰弱も激しかったから何時目が覚めるかはわからない。今は点滴で栄養をとるしかないね。」
「そうか。」
若と呼ばれていた男はそれだけ聞くとすぐに少女の傍らに近づき手を握る。
静かな部屋。
若と呼ばれていた男と運転手、洸と呼ばれる医師、そして少女の4人が1つの部屋にいるにも関わらず静かな部屋。
若の行動に驚き息をのむ二人。
しばしの沈黙。
「亨、一式準備しろ。」
それを破ったのは若と呼ばれていた男。
亨と呼ばれた運転手は焦る。
一式、つまりそれは少女をここで匿うということ。
「ここにですか?それは些かリスクが高いかと。」
落ち着いて諭すように言う亨。だか、若と呼ばれた男は聞く耳を持たないように無言を決め込みじっと少女を見る。
「はぁ。了解しました。すぐに手配します。」
主の意思の固さをすぐに悟った亨。
「亨さんも相変わらず大変だね。遥斗はいっつもわがままだから。」
クスクスと笑いなが若と呼ばれていた男、遥斗をみる洸の瞳には嬉しさが混じる。
「遥斗、俺は一度病院に戻るね。また明日の朝彼女の様子を見に来るよ。たぶんそれまで起きないと思うし、ま、何かあったら連絡して。」
洸も聞きたいことは山ほどあるだろうが、そこは大人。今自分がすべきことがここにないことはわかる。
「若、では私は諸々の準備に取りかかります。何かありましたらご連絡を。」
二人はそう言い残しマンションを後にした。
部屋に残るのは、遥斗と眠り続ける少女のみ。
「全てのものから俺が守ってやる。」
ふと、呟いた言葉。
遥斗は少女の左手を持ち上げそっとキスをした。
それはまるで、誓いのキスのように。
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