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カーテンの隙間から朝日が差し込む。
静かな部屋の中には、いまだに眠り続ける少女とそれを見守る遥斗。
少女は出会ったときより幾分ましな顔つきをしているが、未だにその瞳は開かれない。
コンコン、ガチャ
と、扉の開く音と共に中に入ってきたのは亨で、その手には女性ものの紙袋がいくつも掛かっている。
「若、こちらは何処に置きましょうか?」
少しだけ右手をあげて、紙袋を指す。
「俺の書斎の隣に。」
やはり、少女から目を話すことなく答える。
「かしこまりました。ご朝食は?」
「いい。」
それだけ聞くと、亨はすぐさま部屋を出て書斎の方に向かう。
遥斗は少女の髪を撫でると名残惜しそうに立ち上がった。
向かうのはリビング。扉を開く。
「若、本日の午前中の本家はどうしても外せません。」
紙袋を部屋において一足先にリビングに来ていた亨は、入ってきた主のこれから発するであろう言葉を先読みしてそう告げた。
「…。」
遥斗は自分が言う前に言われたこと、そして、それが絶対であることを理解している。
しかし今は、少女のそばから離れたくないと言うのが本音。
「私たちがいない間は洸に看てもらうように昨日手配しております。」
また先手を打つ亨。
主のしたいこと、出来ないこと、してほしいこと。すべてを把握し先読みできるのは長年の付き合いから。
遥斗は、それを聞くと踵を返しリビング扉に手をかける。
「洸はあと、30分程で到着するそうです。若もご準備を。」
亨の言葉を聞き流しながらリビングを出た遥斗が目指す場所はやはり少女が眠る部屋。
少女の傍らに近付き、その頬を数回撫でると、
「すぐに戻る。」
眠っている少女に優しく囁き部屋を出る。
支度を終えリビングにはいれば陽気な声で挨拶を告げる洸。
「亨車を回せ。」
そんな洸を無視して亨に指示を出す。
「えー!挨拶くらいしてよ!」
不満顔を作る洸だが、遥斗は全く相手にしない。
「はぁ、遥斗は相変わらずなんだから。なるべく急いで帰ってきてよ。俺だって暇じゃないんだから。」
文句を言っても全く視線を合わせない遥斗。
さらに深いため息をつきながらも二人の背中を見送る洸。
結局遥斗は洸に一度も視線を向けることなくマンションを出ていった。
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