1.心の音

12/12
前へ
/944ページ
次へ
彼の唇がチュッと離れた音と、私のヘンな声が、きっと彼の耳にも聞こえてしまったんだと思う。 「消毒するだろ。」 被っていたニット帽は、彼の手の中にある。 一緒に私の体を掴んでしまえる大きな手は、今朝、私が鏡の前で頑張ってみた編み込みを、緩く解いていく。 何度もやり直して何十分もかかってアレンジした髪が、彼の手に崩されても、イヤだとは思わなかった。 彼の優しく撫でてくれる手は、甲が真っ黒で、所々ケガをして赤くなっている。 気には、なるのに……。 彼と同じ、消毒は出来なくて。 熱くてボーッとするのを、必死に、隠そうとしていた。
/944ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加