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カタッ――。
父の職場についてきた私は、ブースの端に置いてある楽器を手に取っていた。
ネックの感じ、この重さ。
先に言っておくけれど、べつに誘拐している訳じゃない。
許可はもらっているし、ちょっとお借りしているだけだ。
持ち主がコントロールルームにいるのを確認して肩に掛けては、勝手の良いポジションに持って来て、弦に指を置いた。
「スゥ……」
息を吸って、今ここで聞いた音を再現しようと手を動かし、金魚鉢で飛沫をあげ、足掻く。
指先が弾いた瞬間に私の世界は広がって、まだまだ未熟なテクニックでも気分はミュージシャンだった。
太い弦を振動させると低めの音がボーンと揺れに合わせて駆け上がる感覚に、カラダの奥から虜になっていく。
実は今、自分の体の一部のように弾こうとしているのはギターじゃない。
聞いた曲をなぞっていたはずが脱線して、気分のままにリズムを刻めば、私の頭の中ではギターの音がする。
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