第1章

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『7月7日の暑い日・裏』  『♪! ♪! ♪!』  「…ん!」  朝の6:30、激しく持ち主を起こす目覚ましを乱暴に止める。  「はぁ…」  伸びをすると出てくるのは溜息。働き始めてから出るようになったコレはいつのまにか習慣になってしまった。  しかし、こんな鬱陶しい気分も今日まで…  何度も何度も実験してきて成功している。  やっぱり、あの怪しい店主は本物の魔法使いかナニカだったのだろうか?  朝の身支度も終わったので、サプリメントをミネラルウォーターで体内に流し、私は部屋を出た。  -そう、今日は決行の日だから…    いつぶりだろう…こんなにやる気に満ちている朝は。  五年前の入社日から? いやいやもう少し前の入社試験ごろ…?  逆にやる気無くなったのは…新歓パーティーでの気持ち悪いノリと強い酒を勧めくる下心の塊を見てから? ちょっと黙ってるだけでセクハラしてくる上司の言葉を聞くようになってから? 手の甲でやたらお尻を触ってくる痴漢に遭遇してから?  今までのストレスの元を辿っているといつの間にか駅近くの交差点に着いた。  ここは運転者には死角が多くて有名な交差点、朝は電車やバスで急ぐ歩行者も飛び出るのでこの時間はとびきり危ない。  「っ!」  ほら、クラクションが鳴った…  「…」  『このスマホから出る電波は一方的に対象を操れる』  あの日、怪しい露店の店主はそう言いながら格安のスマホを私に売り渡した。  そして、これから私は会社のサーバーを支配して情報を流し壊滅させる。お金や地位なんかいらない、ただただ私の日常を食いつぶしてくれた仕返しをしたいだけ…  ふと、赤信号が目に入る。  (今、ここで信号機を操作すれば数秒後には…)  そして、信号が青に変わる…  怪しまれないよう歩きながら画面を指に…  『たった一つ。異性に触られること…昨今の男女事情は知らないけど滅多に触れられないとはいえ、そうなってしまったら…』  「っ!!」  「きゃっ!?」  突然の衝撃。不意打ちは手からスマホを離す。  「っ! すいませ…ん! それじゃ!」  男子高校生が間一髪、地面に落下する前に私のスマホを何とかキャッチして手渡してくれた。  「ぁ… うそでしょ…」  『効果は全く無くなる、つまりただの電話になってしまうから』  決意した朝は呆気なく日常に戻ってしまった…
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