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「実桜…」
私は名前を呼ばれ首を傾げる。
ゆきの手は私の頬から離れ、私のブラウスの一番上の牡丹に手がかかる。
「ちょっ、ちょっと待って!?」
私は慌ててゆきの手を抑える。
「…なんで?」
ゆきは首を傾げる。
な、なんでって…心の準備というものがあるでしょー!!
それに私…
「あの…初めてで…」
「フッ…俺もだよ」
ゆきは微笑み優しい顔を向けてくれる。
てか、てっきりゆきは経験済みかと思ってた。モテるし…。
それに私には見られたくないものが身体にある。
小さい時に病気で、肺に酸素を入れる時に管を通した穴が胸の真ん中辺りに傷になって残っている。
見られたくない…。
「実桜?」
きっと見たら気持ち悪いって思われて嫌われる…。
私は胸の真ん中の傷の辺りにあたるブラウスを右手でギュッと無意識に握り俯く。
「管の跡?」
「え?」
私は驚いてゆきを見る。
「…知ってるよ。その時の実桜を隠れて見てたし。一応少しは勉強してるしね」
ゆきはニッと笑い、私の右手を握る。
「ゆき…」
私はゆきが知っていた事に驚くが、それよりも今までずっと長い間気にしていた事が、ゆきにわかってもらえて何より嬉しかった。
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